月桂殿と藝術紀行
能舞台「月桂殿」は明治後期に東京より移築されたもので、旧大聖寺藩主・前田利鬯子爵より寄進された。約40年前より「修善寺藝術紀行」と題し、能楽・狂言・新内・舞踊を当世一流の師を招いて季節に応じて公演している。宿そのものは1484年、先祖・浅羽弥九郎幸忠が修善寺曹洞宗開山のため当地を訪れ、堂守のかたわら門前に開いた宿坊に端を発する。
能舞台があること自体は展示にもなり得るが、この宿では舞台が年に何度も使われ続けている。約40年という期間は、設えを維持するだけでなく、招く演者との関係と演目の季節配分を宿の側が持ち続けてきたことを意味する。滞在の日程を公演に合わせれば、客室と庭と舞台が同じ一日の中に並ぶ。公演がない日でも、舞台は水に浮かぶ構えのまま館内にある。
AKUMATOは流行ではなく積み重ねを見る。この宿が持っているのは「能舞台がある」という設備の事実ではなく、移築元と寄進者という具体的な来歴を持つ舞台を、40年かけて使い続けてきたという時間である。歴史そのものを価値とするのではなく、その歴史が現在も稼働していることを評価する。
こんな旅に:能や邦楽を自分から観に行く習慣がある方、宿の中で演目が成立する場に立ち会うために日程を合わせられる方に薦める。観光を詰め込む旅ではなく、宿にとどまる滞在に向く。
出典を確認する →